私は、元システムエンジニア&IT企業の経営者です。
長年に渡りビジネスシーンにおいて、感謝の言葉「ご連絡ありがとうございます」や「先日はありがとうございました」などをあいさつ代わりに使ってきました。
ところがたまに、あいさつ代わりの「感謝の言葉」とはまったく違った種類の「感謝の言葉」に出くわすことがありました。
それは・・・「感謝してもしきれない」
あるシステム開発プロジェクトにおいて、困難を極めた末に完成した時プロジェクトリーダーから出た言葉が、「みんなの協力で何とか完成させることができました。感謝してもしきれない、本当にありがとう!」でした。
この「感謝してもしきれない」と冒頭の「ご連絡ありがとうございます」は、同じ「感謝の言葉」ですが、感謝の深さや強さが大きく違っています。前者の方が深みのある言葉だということが、記事を書きながら実感できました。
では「感謝してもしきれない」の意味がどれくらい奥深いのか、なぜ深い感謝の言葉を使うのかなどを、例文も交えてご一緒に見ていきましょう!
「感謝してもしきれない」の意味を詳しく解説
「感謝してもしきれない」は一般的な慣用句やことわざではありませんので、国語辞典に載っていません。
意味は、概ね分かると思いますが、イマイチ分かるようで分かりません。詳しく解説していきますね。
「感謝してもしきれない」の意味は深い感謝、ご恩に報いるため使おう
「感謝してもしきれない」の意味を【直訳すると】・・・
- いくら感謝しても、感謝し尽くせない程、深く感謝している!
一言で言うと、この上なく深く感謝していること、ですね!
では意味を解説します。
まず「感謝」の意味は、ありがたいと思うこと。例えば、他の人がしてくれた親切や好意などに対して、有難い気持ちを持つこと。また相手に恩返しするために敬意や謝意の気持ちを表します。
この「感謝してもし切(き)れない」は「感謝しても感謝し切れない(※注1参照)」と言う強調表現が省略された言い回し。「感謝し切れない」は「感謝し尽くせない」こと。
従って「感謝しても感謝しきれない」とは、「いくら感謝しても、(全てを)感謝し尽くせない程、深く感謝している」という意味があり、簡潔に言うと「この上なく深くありがたいと思う」という意味を持ちます。
「この上なく深く感謝している」という意味が込められていますが、深い感謝の気持ちはどこから出て来るのでしょう?
- 受けたご恩に報いたい気持ちから、この上なく深い感謝の言葉を使うのでしょう
深い感謝を伝えるだけでなく、相手との絆も深まり人間関係も良くする素晴らしい表現なのですね。
※注1:「〇〇しても〇〇しきれない」という強調表現は、他に「悔やんでも悔やみきれない」「死んでも死にきれない」などが知られています。前者は「悔やんでいる」の強調表現です。
「感謝してもしきれない」の敬語表現
「感謝してもしきれない」は「感謝してもしきれません」で敬語(丁寧語)表現になります。
謙譲語表現は「感謝してもいたしきれません」ですが、この表現は聞いたことがありませんね。どうしても謙譲表現したい時は、類語による言い換えをおすすめします。
要注意
「感謝してもしきれない」には尊敬語表現は存在しません。尊敬語は相手を持ち上げることで敬意を表す敬語ですが、「感謝してもしきれない」の当事者は、相手ではありません(自分です)!!
「感謝してもしきれない」の意味が分かりにくい
ところで、「感謝してもしきれない」の「しきれない」の部分に着目すると、聞き手によっては感謝の気持ちを否定しているように聞こえるかもしれませんね。
言うまでもなく、「しき(切)れない」とは「感謝し尽くせない程深く感謝している」のこと。意味は、間違いなく深い感謝の気持ちですので、お間違えのないようご注意ください。
「感謝してもしきれない」を使う際の注意事項
「感謝してもしきれない」は特別な人にお返しとして使う
一般的に、お世話になった人には何らかの形でお返しをします。言葉によるお返しでよければ「感謝してもしきれない(ません)」が適当です。
一方、電話番号を教えていただいた時の感謝は普通の感謝、その表現は「ありがとうございます」で十分です。
要注意
普通の感謝で十分なときに「感謝してもしきれない(ません)」を平然と使うのは、違和感を感じさせるだけでなく、かえって失礼です。
「感謝してもしきれない」と「感謝してもしきれません」の使い分け
上司や年配者に対しては、表現方法が概ね決まっていますが、友達や同僚に対しては使い分けに判断が必要ですね。
- 上司や年配者には一般的に「感謝してもしきれません」と敬語表現で伝える
- 友達や同僚・部下には、親密度・立場・年齢などにより判断する
ただ後者の場合、時には敬語が邪魔になるケースもありますので要注意です。
「感謝してもしきれない」だけでなく、感謝する内容も伝える
「感謝してもしきれない」や「感謝してもしきれません」だけ伝えても、相手は感謝している内容や気持ちを正確に理解できません。
感謝している内容を相手に分かってもらえるよう、前後に具体的な言葉を追加して伝えましょう!
「感謝してもしきれない」は迅速に伝える
例えば、取引先より当方の不手際によるミスを指摘された場合、ミスを素直に認め、お詫びすることが大切です。
また謝罪とともに、課題を浮き彫りにしていただいた取引先の寛大な配慮に対して、深い感謝の言葉「感謝してもしきれません」を迅速に伝えましょう。
さらに、今後どうするのかを解決策として提案しましょう。きっとピンチがチャンスに変わります。
「感謝してもしきれません」の使い方の詳細を知りたい方は、コチラをご覧ください!
→ 「感謝してもしきれません」の使い方!特に目上への利用には要注意
「感謝してもしきれない」の使い方2例文
「感謝してもしきれない」は、ビジネスシーンでも日常会話でも用いられます。
自分を助けてくれた特別な人にお返しする、深い感謝の気持ちを込めた例文を2つご紹介します。
- 当方のミスに対し、取引先の寛大な配慮に感謝します
- プロジェクトリーダが、苦楽を共にした部下に感謝します
当方の大失態に対し、取引先の寛大な配慮に感謝
今、当方の不手際にもかかわらず、取引先が寛大な配慮をしていただき、深く感謝しているところですが、取引先には何をどのように伝えればよいでしょうか?
「感謝してもしきれない」の謙譲語表現「感謝してもいたしきれません」はほぼ使われていません。
そこで、類語「感謝の気持ちでいっぱい」の丁重な(丁寧語)表現「感謝の気持ちでいっぱいでございます(※注1参照)」に言い換えましょう!
この度は弊社の不手際にもかかわらず、寛大なご配慮を賜り、感謝の気持ちでいっぱいでございます(※注1参照)。
申し遅れましたが、不手際によりご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした(※注1参照)。不手際の原因と今後の対応策については明日中にご報告いたします。
このような不手際が生じた場合は、深い感謝の気持ちとお詫びの気持ちを迅速に伝えることで、特別な存在である取引先の担当者にも深い謝意が伝わります。
※注1:「ございます」は丁寧語ですが、2007年の文化庁文化審議会「敬語の指針」によると、謙譲語IIと同程度に丁重な表現と扱われています。
第二話「敬語の基本」理解度チェックの解答
中略
また謙譲語IIは,丁寧語「です」「ます」よりも改まった丁重な表現です(丁寧語のうち「(で)ございます」は,謙譲語IIと同程度に丁重な表現です)。
(引用元:文化庁文化審議会「敬語の指針・第二話「敬語の基本」」)
プロジェクトリーダが、苦楽を共にした部下に感謝
部下や仲間に対しては、「感謝してもしきれない」を用いても、敬語表現を用いても構いません。親密度や年齢・関係性などで使い分けるとよいです。
大規模プロジェクトが無事完成し、プロジェクトリーダが1年間苦楽を共にした部下に労いの言葉をかけます。一緒に頑張ってくれた仲間には、むしろ敬語表現を使わない方が気持ちが通じるものですね。
一緒に取り組んできたプロジェクトが成功裏に終わり、最後まで頑張ってくれた君達には感謝してもしきれない。1年間本当にありがとう!また別プロジェクトで会いましょう!
「感謝してもしきれない」を類語表現に言い換え
この上なく深い感謝の言葉「感謝してもしきれない」には、類語表現がたくさんあります。8つご紹介します。
下段に記載したように、意味はすべてほぼ同じ。この上なく(胸が張り裂けそうなほど、溢れるほどに、抑えることができないほど)感謝している、です。
類語表現8例文
・感謝の気持ちでいっぱい
ありがたいという気持ちで心が満たされている
※「感謝の気持ちでいっぱいです」をビジネスで使いたい方、詳細はコチラ!
→ 「感謝の気持ちでいっぱいです」をビジネスで使おう!敬語にご注目
・感謝の言葉もない
感謝の気持ちが深すぎて、その言葉もみつからない
・感謝の言葉しかない
この上なく有難い気持ちだけで、感謝の言葉しか出てこない
・感謝しかない
感謝の言葉しか見つからないほど、心の中が感謝で満ち足りている
※「感謝しかない」に違和感を感じる方、詳細はコチラ!
→ 「感謝しかない」に違和感を感じる?使うのか言い換えるのか要判断
・感謝の極み
この上なく感謝している
・感謝の至り
この上なく感謝している
・心より感謝している
心底から深く感謝している
・感謝の念に堪えない
抑えることができないほど感謝の気持ちで満たされている
まとめ
冒頭に書きましたが、「感謝してもしきれない」の意味がどれくらい奥深いか、深い感謝の言葉を使うわけは何か、分かったでしょうか?
まず「感謝してもしきれない」の意味は、この上なく(心底から)深く感謝している。
そして、「感謝してもしきれない(ません)」を使う理由は、受けたご恩に報いたいからでしたね!
一方、電話番号を教えてもらうほどの時は、普通の感謝「ありがとうございます」を使うのでしたね!
以上で、「感謝してもしきれない」の意味の奥深さやなぜその言葉を使うかが分かりました。これからは、普通の感謝に「感謝してもしきれない」は使えませんね(笑)!